仕事とプライベートは別、とばかりは言えない。プロスポーツは観客、ファンがいて成り立つ業種。羨望の眼差しが向けられる世界は、プロとアマの垣根があるから成立する客商売だ。倫理観の欠如にいい加減であっていいわけがない。公私ともに自らを律することで並外れた待遇を受ける権利が生まれるのだ。
スポンサーも逃げる破廉恥事案
昨年末に西武ライオンズの遊撃手・源田壮亮が不倫騒動を起こして非難を浴びた。今回は女子プロゴルファーを妻に持つキャディが同じ女子プロ3人と掛け持ち不倫をしていたことが3月に発覚した。何ともおぞましい振舞いである。酒池肉林の女子プロゴルフ界、と言われても仕方ない。
<卑劣漢と、黄金世代1998年組の浅井咲希>
かつては夫のいる妻と性行為をした男性は「姦通(かんつう)罪」が適用され処罰の対象だったが、戦後は配偶者以外の者との性行為自体を処罰する規定は存在していない。しかし、倫理上許されるべきことではない。結婚の誓いを破るのはれっきとした背信行為。一夫多妻はこの国では存在しない。
今回の不倫事件はツアー1勝の女子プロ淺井咲希(26)を妻に持つキャディ栗永遼(30)が、若手有望女子プロの川崎春花(21)、阿部未悠(24)、小林夢果(21)を次から次に手籠めにした。この男はその行為をスマホで写真に撮り、キャディ仲間などに送って得意げだったというから、とんでもない卑劣漢である。若手の3人は男の妻で女子プロ界の先輩の顔にも泥を塗った。
女子プロ会員は2020年1月時点で860人。約4年後の現在は約900人いるとして、下部ツアーを含めた一線のプロはその1割強で100人前後だろう。浅井は1998年生まれの黄金世代でツアー1勝しており(このときのキャディが栗永)、後輩の3人が女子プロ全盛時代の先輩を知らないはずがない。報道では、この卑劣漢は4月の男子開幕戦でバッグを担ぐ予定だったが、取りやめたという。当たり前である。ここまでの破廉恥が露見したのに放置するなら、男子プロはますますスポンサー離れが加速してツアー競技はなくなってしまう。大会を主催するスポンサーは例外なく大企業。コンプライアンスの厳しい現代において、こんな魑魅魍魎のプロスポーツに金を出すのは、経営リスクの観点から危険極まりないではないか。
プロゴルファーはドサ周りの旅芸人?
ゴルフというスポーツは金がかかり、上達が難しい。今では低学年から始める選手が増えたが、ぜいたくスポーツの域を出てはいない。プロになってカネを稼ぐには、コーチを付けたりしてコストがかかる。プロを目指す実力がついて一気に稼ぐ人は一握りで、その間スポンサーを見つけたりして周囲の支援を仰ぐことになる。
<渦中の3人娘―左から川崎春花、阿部未悠、小林夢果>
そこではひいき筋が選手の周りに生息し始めて、ことあるごとに容喙する。めでたくプロになるとタニマチは「今度は回収してもらう番だ」とさらに関与を深め、選手にお座敷をかける。そうした周囲との関係でプロは雁字搦めになる。
ツアー大会は3月から11月までほぼ毎週各地で開催され、選手はドサ周りの役者のように全国を転戦する。キャディは選手から雇われるが、総じてプロ崩れが多く、女子プロの指南役を気取る。女子プロも20歳そこそこで名が売れることがあり、まともな社会体験など経ないまま旅芸人になるから、毒牙に罹るのも早い。修学旅行気分で転戦していれば、タガも緩む。
選手を統括する業界団体もまた、一般常識を欠いた選手上がりか、強豪大学ゴルフ部の系譜に連なる体育会系の猛者だったり、旧華族の血を引く御曹司だったりが幅を利かして運営しているのだから、ここも知見や良識を持ち合わせていない。選手は世間で揉まれていない分純粋だが、倫理感を醸成する環境と縁遠かった。人気スポーツだが、リーダーシップを発揮するに欠け、業界を管理指導できるシステムが構築されていない。
野球はアマ先行、ゴルフはプロが牽引
プロ野球はアマチュアが興隆したあとに生まれ、組織が立ち上がって肥大化した。一方、ゴルフはプロの世界が先行し、アマがその予備軍になった。これは大きな違いを生んでいるのではないか。
<ペナルティがなければモラルハザードを生む>
信賞必罰である。業界の信頼低下につながる事案を起こしたら、罰を受けなくてはならない。でなければモラルハザードを生む。業界の統括団体が断を下すべきだ。今回の不倫騒動を構成しているのは女子プロと男子プロ、キャディ。つまり業界丸ごとである。キャディの栗永遼は永久追放か最低1年間の活動禁止、不倫相手の3人は10試合の出場禁止が妥当だ。川崎春花は開幕戦から5戦連続欠場している。騒動の余波を受けていることは間違いない。日本女子プロゴルフ協会の小林浩美会長は3月下旬、「公表できる時期が来たら公表することを検討していく」と語った。相変わらず後ろ向きで、真相解明など1ミリも考えていない。(三)